漂泊の日々

日々触れたものの感想、時々フランス語の学習など。

アメリカン・スナイパー。戦争の勝者って何処にいるの?

夜、ふとつけたTVで海外のドキュメンタリーが流れていて、思わず目が離せなくなることがある。暗い部屋で光るTVの画面が、知らない世界に向かってぽっかり窓みたいに空いていて、その中でいろんな人が、非現実に見える現実の世界で、問題を抱えながら必死に生き抜いている。

アメリカン・スナイパーは、そんなドキュメンタリーを観ているような気持ちにさせる映画だった。

 

***以下、ネタバレご注意ください***

テキサスで、弱きものを邪悪なるものから守る強い存在であれと父に育てられた主人公は、アメリカ大使館爆破事件をきっかけに海兵隊の志願兵となる。

父に仕込まれた射撃の腕を見込まれ、特殊部隊シールズに配属され狙撃主としてイラク戦争に参加した主人公は、伝説のスナイパーとして味方に称えられる一方、敵には悪魔と呼ばれ、多額の賞金をかけられることになる。ここまでが導入部。

戦争映画が苦手な人には全く向いていない。

ダイーシュの設立にも関わったアル・ザルカウィをターゲットとした作戦、オレンジの囚人服を着せられ斬首される人々、死体。銃火器と隣り合わせで日々を過ごすイラクの人々。イスラム国に、日本人の人質2名が殺害されたこのタイミングでの公開は、人知を超えた世界の意思ってほんとにあるんじゃないか、と思ってしまう。

アメリカの正義に敵対するアルカイダの邪悪な所業が、裏返せばイラクの人々にとって家族や平和な日常を守るための正義となることが、さりげなく描かれている。

目には目を、と負傷した仲間の報復に向い、皮肉にもアメリカの正義に疑問を抱いていた仲間が最初に死亡する。

殺される仲間を一人でも生み出さない、との強い意志で戦地への派遣を繰り返す中で、いつの間にか戦地が日常、家族と過ごすのがかりそめの日々へとすり替わっていく。主人公が戦争という病に侵されていく過程を描いたドラマ。

 

映画を見て残ったことは、どこにも勝者がいないこと。少なくとも映画に登場する、普通の人々の中には誰ひとり。

アメリカでは、主人公クリス・カイルを巡って刑事裁判が近く予定されていることもあり、世論を二分する話題作となっているらしい。

 

観に行った梅田の映画館はガラガラ。

主人公は映画の中でこんな趣旨のことをいっていた。「日々戦士が戦いで命を落としているのに、ここでは誰一人としてその話をしていない。」

窓の向こうでは現実なのに。